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黒い封筒

心霊現象というわけではなく、単に不気味だったというだけなのですが、忘れられない出来事があります。

今からもうかなり前、1995年頃だったと思います。当時、私は川沿いにある団地に住んでいました。

この辺りはマンションや団地が密集したかなりの過密地帯で、同年代の子供が大勢いたのを覚えています。

あまりに子供の数が多いため、学校のクラスが7組だとか8組だとかになっていました。

 

私が小学五年生だった頃、近所で少し不気味なことが起こりました。

郵便受けに差出人のない「黒い封筒」が投函されているというもので、自分のクラスでも私を含めて五人ほど受け取った子がいました。

封筒の中にはただ薄い真っ白な紙が一枚入っているだけで、文字も絵も何も書かれていません。

何人かはあぶり出しなどを疑って紙を火に近づけたりしてみたようですが、何か分かったという話はまったく聞きませんでした。

 

その黒い封筒には消印が押されておらず、郵便局を通して配達されたわけではないことは確かです。

誰かが直接郵便受けに投函したということになると思いますが、その割にはマンションの高階層にも入っていたりしました。

近隣のマンションはすべてオートロック式のドアが入口に取り付けられており、簡単には中へ入れないようになっているからです。

一応、誰かに便乗して入ることも考えられますが、そういう不審人物を見たという話は特になかったと記憶しています。

 

封筒を受け取った人に不幸な出来事が起きた、突然失亡くなった……といった話があれば立派な怪談ですが、何か起こったということもありません。

私自身も封筒がポストに入っていた時はとても怖かったのですが、三日もするとすっかり忘れていました。

今こうして体験談を書いているのも、当時同じく受け取った友人と同窓会で再会して、そういえば何か気味の悪いことあったね、と言われて思い出したからです。

その友達は別の知り合いにも聞いてみたようですが、やはり受け取った後何か悪いことがあったという人はいないようでした。

 

ただ、ひとつだけ説明のつかないことがあります。

もしも何かあったときのために、私は黒い封筒に入った紙を机の引き出しに入れて保管していましたが、いつの間にか無くなっていました。

引き出しには鍵が掛かり、鍵も自分しか知らない場所に隠していたので捨てられることなどないはずですが、跡形もなく消えていたのです。

これはさっきの友人も同じで、気が付くと保管していたはずの場所から消えていたとのことでした。

 

当時学校では結構な騒ぎになり、全校集会や帰りの会で先生から封筒についての話がされた記憶もあります。

しかし、誰が何の目的で封筒をポストに入れて回ったのか、それは最後まで分からずじまいでした。

投函先もバラバラで受け取り人に共通点や繋がりはなく、本当にたまたま私と友人が顔見知りだった程度です。

封筒が見つかったのも1995年中頃の半年くらいの短い間だけで、それ以降に同じような出来事が起きたという話もありません。

 

あの黒い封筒と白い紙は、一体何だったのでしょうか?