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折り返しお願いします

かつて在籍していた会社で何回か起きていた、個人的には腑に落ちない奇妙な出来事になります。

今はもう転職してしまったこと、在宅勤務が中心になってしまったことで起きなくなったのですが、今も忘れられずにいます。

ひょっとすると似たようなことが起きた方がいるかも知れませんので、ここに記録しておこうと思います。

 

今からもう10年ほど前になりますが、私は当時東京にあるシステム会社で働いていました。

親会社から受注を受けてシステムを開発し、運用まで面倒を見る俗に言うユーザー系の企業になります。

業界再編の動きの中でも当時の名前のまま存続し続け、現在も交流のある方が数名いらっしゃいます。

 

その頃も在宅勤務の制度はありましたが、利用に際してはそれなりの理由が必要であり、ほとんど使われていませんでした。

育児や介護のために出社が難しい方がごく一部で利用されている、そういう制度でした。

ですので、オフィスにはいつもほぼ全社員が出社していたものと考えていただいて差し支えありません。

 

私も例に漏れず、一時間ほどかけて通勤してオフィスで就業していました。

当時親会社が合併した事に伴うシステム統合プロジェクトが進められており、これは50近い既存システムが参画するかなり大規模なものでした。

私はその案件にPMOとして参加し、同じくPMOにアサインされた三名と共に業務に当たっていました。

 

主な仕事は進捗管理と課題管理であり、各システムの開発が上手く行っているかを情報収集する必要がありました。

定例会や資料の更新依頼で情報を吸い上げるほか、個別にシステム担当者と電話やメールでやり取りすることもあります。

各部署が契約している協力会社の業務遂行責任者と直接やり取りすることも珍しくなく、かなり多くの人とやり取りがあったのは事実です。

 

そうして忙しい日々を過ごしていたときのこと。ある時昼食から戻ると、席に一枚の伝言メモが置いてありました。

多くの会社でそうしていると思うのですが、メンバーの離席中に他のメンバーが電話や直接来訪を受けることはしょっちゅうありました。

この時は要件を軽く聞いて、離席者のデスクに伝言メモを残しておくという動きが皆の基本になっていました。

 

誰かが伝言メモを置いておくというのは当たり前の光景だったので、誰かが電話を取ってくれたのだと思い、何の疑問も覚えずにメモを手に取りました。

その頃はテストの進捗が遅れているシステムの担当者と個別にやり取りしており、思い当たる節はいくつもある状態でした。

伝言メモには「折り返しお願いします」と少し乱雑な筆致で書かれ、090から始まる番号が載っています。

 

コミュニケーションを取っていた人の数が多かったこともあり、誰の電話番号なのか分からないままとりあえず番号を入れます。

この時、ディスプレイに連絡先の名前は出ませんでした。つまり電話帳に未登録の番号だったということです。

電話で個別にやり取りをするときは必ず電話帳に登録していたので少し気になりましたが、誰かの代理で電話を掛けているケースもあるのでそのまま待ちます。

 

架電してしばらくすると電話が繋がりましたが、相手側から何の反応もありません。「もしもし?」と呼びかけても同じです。

少し待ってみると、不意に「ザーッ」というテレビの砂嵐のような音が聞こえ始めました。

この音が非常に奇妙で、砂嵐のような音なので当然耳障りなのですが、電話越しとは思えないほどハッキリ聞こえたのを覚えています。

 

間違い電話かと思い一度切電し、再度掛け直してみましたものの結果は同じ。嫌にクリアな砂嵐の音しか聞こえませんでした。

昼休みが終わって戻ってきた三人の同僚にメモのことを訊ねてみましたが、誰も身に覚えがないとのこと。

近隣の席に座る人にも訊いてみましたが、私の席にメモを置いたという人はいませんでした。そもそも全員席を外していて、昼休みの終わりと共に戻ってきたと言います。

 

……では、いったい誰がこのメモを置いたのでしょうか?

 

誰も置いた覚えのないメモに、聞こえてきた謎の砂嵐の音。私は気味が悪くなり、メモを丸めてごみ箱に捨ててしまいました。

その後、やり取りしている関係システムの担当者数人に私に電話を入れたか確認してみましたが、やはりと言うか、昼休みに電話を掛けたという人は見つかりませんでした。

結局この件については、これ以上は何も分からないまま終わってしまいました。

 

さらに不気味なのが、こうした「誰のものか分からない伝言メモ」はこの一度だけでなく、在籍中少なくとも三回は置かれたことです。

ミーティングや昼休み、休日など私のいるエリアから誰もいなくなるタイミングで置かれるため、同僚が悪ふざけで置いていたというわけでもありません。

他のメンバーの机には置かれたことはなく、私にだけメモが置かれるというのも気になりました。

 

それからプロジェクトが終わったあたりで転職し、今はほぼフルリモートに近い職場で働いています。

謎の電話番号が掛かれた伝言メモが置かれるあの奇怪な現象は、環境が大きく変わったことで完全に収まったと思いたいです。

今はやり取りのほとんどをTeamsで行っているため、伝言メモを使うこともほぼ無くなりました。

 

次はTeamsで差出人不明のメッセージが届く、といったことがなければよいのですが……。